ジャーナリズムの今後はデジタルの世界に、本『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか メディアの未来戦略』(ジェフ・ジャービス)

 ジャーナリズムは今厳しい状況に陥っている。
 ジャーナリズムと経営は大きな課題になっており、デジタル化により、これまでの経営は壁にぶち当たっている状態。デジタルの分野に入り、そこでどうジャーナリズムを展開していくか、どう経営をしていくか、はジャーナリズムの業界では日々の手探り状態。
 そんなジャーナリズムの、未来の行方のヒントが盛り込まれていました。

 興味深かった内容は、

・私たちは、これからも引き続き、過去にはできなかったが今ならできることを探していく必要がある。
 →人々に今までにない新たなサービスを提供する方法、時代が変化しても事業として持続するための方法も探さねばならない。

・ただコンテンツを作成してそれを販売し、広告をつけてその料金を受け取る、メディア企業をそれだけの存在とする考え方はもはや過去のものとみなすべき。
 →メディアは今後、コンテンツの作成、販売業者ではなく、情報を提供するだけでなく、利用者にとって目標達成の手助けとなるサービスを提供。良いサービスを提供するには、利用者との間の緊密な関係の構築が重要になる。利用者との緊密な関係ができれば、ひたすら数、量を追求するビジネスから質を追求するビジネスへと転換できる。

・これからは、顧客、ユーザーでどれだけ良好な関係を築けたかが成功の尺度。新時代の成功の尺度のリストアップ。
 ・どれだけ多くの人を知っているか(名前だけではなく、居住地や、求めているもの、興味の対象、行動パターンなどを知っている人がどれだけいるか)。
 ・顧客、ユーザーが進んで自分についての情報を提供したくなるような何かを持っているか(個人情報を提供してでも利用したいサービスをしているか)。
 ・個々の顧客、ユーザーについてどれだけ細かいデータを持っているか。一人ひとりについてどれだけ詳しく知っているか。
 ・集めた情報を、顧客、ユーザーの利益のためどれだけ利用できているか。
 ・集めた情報を、自分たちの利益のためどれだけ利用できているか。広告料や利用料の増加にどれだけ役立っているか。集めた情報を基に開催したイベントなどどれかで収益をあげているか。
 ・顧客、ユーザーの間にどのようなコミュニティができているか(単なる特定の人の集まり、「マス」ではなく、顔の見えるコミュニティになっているか)。
 ・コミュニティのメンバーが求めている情報を的確に提供できているか。これは、ジャーナリズムにとっては非常に重要な成功の基準である。提供されている情報は、本当にコミュニティの人たちが欲しがっているものなのか。求めている情報を的確に提供するためには、顧客、ユーザーの声に耳を傾けなくてはならない。まずは、何を求めているのかを尋ねる。求めている情報が何かが分かれば、それを提供するのに最適な手段が何かを考える必要がある。コミュニティのメンバーで情報を共有する場を作るのか、教育講座を立ち上げるのか、報告記事、あるいは解説記事を書くのか、それともただ関連データを開示するだけでいいのか。場合によって様々だろう。それが、ジャーナリズムの最も重要な価値につながっていく。ジャーナリズムの最も重要な価値とは、利用者の目標の達成に役立つということ。

・コミュニティは作るものじゃなく既にそこにあるもの。
 →皆がそこで自分のしたいことをしている。どうすればコミュニティが作れるか、ではなく、コミュニティの活動をどう支援すればいいか、どうすれば彼らの活動の助けになるか。

・使う時間が短いのは、若い世代の方が上の世代よりも効率的にニュースを得ている証拠かもしれない。
 →上の世代が何もせずにテレビの画面を一時間見つめてやっと得るニュースを、若者たちは数分で得ている、というだけのことではないか。
 テレビや新聞、雑誌、ラジオ以外にも数多くの手段があり、ある面では、新しい手段の方が優れているのは間違いない。時代は変化しているので、ニュース・メディアの成功の度合いを測るには以前とは違う新たな基準が必要だろう。

・民衆の利益のため、何らかの理念のために報道をするのがジャーナリズム。
 →人々のニーズを察知し、それに応える必用もある。情報を流して金銭を得るだけであれば、単なる情報屋ということになるだろう。

・報道機関が成功しているかどうかは、報道の結果から評価すべき。
 →報道をしたことで、人々にどのような影響を与えられたか。提供した情報がどれだけ活かされたか、それが重要である。情報が伝えられたことで、その結果、何が達成されたかを見る。常にコミュニティとの協力が必要だ。コミュニティの人々のニーズを満たす。目的を達するために報道機関の能力を利用してもらう。コミュニティの目的達成の役に立てば立つほど、成功したいということになる。コミュニティのニーズが何かによって、報道機関の仕事内容、報道機関に求められるスキルは変わるだろう。

・昔からあるスキルを、新しい環境に適用して見たということ。インターネット上には体系化されておらず、事実確認もされていないが、重要かもしれない情報が常に多く流れている。それをうまく取り扱うのにジャーナリストの持つスキルが役立つ。
 →ニュースとその目撃者を見つけ出すコツ。“Holy shit!”“WTF(What the fick?)”といったフレーズをツイッターで検索する。テレビや通信である出来事が報道される前に、そうしたフレーズを含むツイートが多くの人に共有されているかを見る。そうすると、出来事の直接の目撃者が見つかることが多い。大半はただ出来事について意見を言っているだけの人だが、その中に目撃者が混じっていることがある。目撃者を発見したら、彼らに接触する。すると、それをきっかけにさらに多くの目撃者と接触できることが多い。こうして情報を得るためのネットワークを作っていく。

・これからのジャーナリストは取材のために各地を訪れるだけでなく、世界各地に住む一般の人々との関係を普段から構築しておく必要がある。
 →何か事件が起きた時に即、現場で直接目撃している人たちの情報を提供してくれる人たちと連絡がとれるということが重要だ。そうした「現地記者」のネットワークが充実するほど、ジャーナリストは良い仕事ができるだろう。ジャーナリストにとって人の話を聴くスキル、人から話を引き出すスキルは以前から重要だが、今はその中身が違ってきている。

・ニュースの消費者には次の4つのニーズがある。
 ①最新の情報を常に遅れることなく得たい。
 ②自分の特性に合った情報が欲しい(自分という人間の持つ価値を高められる情報が欲しいということでもある)。
 ③社会とのつながり、関わりを持ちたい(会話の材料を見つけたい)。
 ④楽しみたい。

・ジャーナリストにとっては、主に次の10の特性、役割が重要。
 ①絶えず真実を追求する。
 ②他の何者からも独立している。
 ③偏りがなく公平である。
 ④常に公共の利益を考える。
 ⑤監視者としての役割を果たす。
 ⑥人々に議論の場を提供する。
 ⑦常に最新の情報を提供する。
 ⑧知り得たことを物語にして伝える。
 ⑨断片的な情報を集約する。
 ⑩センスメイキング(身の回りで今何が起こっているのかを感じ取ること)。

・今後、重要なのは、読者のものの見方、考え方を変えてしまうようなニュース。
 →これからは、誰よりも早く伝えるということには大して意味はない。読者や、読者の属するコミュニティのことを熟知した人間が記事を書く必要がある。そうでなく、ただ情報が早いだけならば、一瞬で古びて終わりになってしまう。

・もしコンテンツを有料にするのであれば、熱心で忠実な読者、価値の高い読者ではなく、ほんの時折、見に来るくらいの読者、あるいはいわゆる「フリーローダー」だけにすべき。

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