気軽に読める、様々な要素が盛り込まれた物語を楽しめる、小説『キャプテンサンダーボルト(上・下)』(阿部 和重、伊坂 幸太郎)

 伊坂幸太郎氏が阿部和重氏とコラボレーションした作品。ちょっとしたところから、世界的なトラブルに巻き込まれていく面白く読める物語。

ゴシキヌマの水をよこせ――突如として謎の外国人テロリストに狙われることになった相場時之は、逃げ込んだ映画館で旧友・井ノ原悠と再会。小学校時代の悪友コンビの決死の逃亡が始まる。破壊をまき散らしながら追ってくる敵が狙う水の正体は。遂に文庫化。本編開始一時間前を描く掌編も収録!
(小説の(上)のあらすじより)」

謎の疫病「村上病」。太平洋戦争末期に蔵王山中に墜落した米軍機。世界同時多発テロ計画。これらに端を発する陰謀に巻き込まれた相場と井ノ原は、少年時代の思い出を胸に勝負に出た。ちりばめられた伏線が反撃のために収束する、謎とアクション満載の100%徹夜エンタメ! 巻末に書き下ろし掌編小説を収録する。解説・佐々木敦
(小説の(下)のあらすじより)」

 今作は阿部氏と伊坂氏のコラボ作品ということで、あの不思議で独特な雰囲気の伊坂ワールドがどんな感じになるのか、気になりながら読み進めた。

 物語はちょっとしたところから、大きなトラブルに巻き込まれていく物語。
 登場人物も魅力的で、ちょっとチャラチャラした勘に頼る相場、理論派で落ち着いている井ノ原。2人はそれぞれにお金に困っている背景があり、何とかお金を得ようとしたところ、大きなトラブルに巻き込まれていく。

 物語の展開は、リズミカルでなおかつ一つ一つの場面をうまい具合に深く描かれたおり、読むスピードを落とさせない。その上、「次の展開は?」っという気にさせられる。
 全体的に気軽に読め、その気軽さから物語をそのまま楽しめるものになっている。ただ、これが深く味わえるかというと、少々物足りなく感じるかもしれない。
 「気軽に楽しめる」といっても、ただ読みやすいだけではなく、読んでいくうちに物語や登場人物に入り込める楽しさがある。相場のユニークさ、井ノ原の理論的な性格、その他にも魅力的な登場人物はおり、物語を面白くさせている。
 そして、謎の銀髪の怪人は物凄い迫力を持った圧倒的な存在感をはなっている。この銀髪の怪人をどうやって倒されるのか? いや、何をしたら倒されるのか? それぐらいの存在感を与えており、そこも見所の一つになっている。

 これらの登場人物が物語を通じて一つの物語上に展開し、さらには読んでいる側にいくつかのメッセージを伝えてくるような物語。
 単純な物語のようで、そうではない……そこには様々な要素が盛り込まれている。そう! 様々な要素が盛り込まれていて、気軽に楽しめる物語。

 上・下巻ともに、この物語にもつながっている短編も収録されており、これも面白かった。