歴史を通じて今後の行方を考えた、『危機を克服する教養~知の実戦講義「歴史とは何か」~』(佐藤 優)

 危機をどう感じとるか、そのヒントに歴史を知ること。

現実は、思想が未だ動かしている。
歴史とは何か? ヒューマニズムとは何か? 近代〈モダン〉とは何か?
冷戦後、終わったことにされた近代〈モダン〉こそが、未だに世界では影響力を持っているのではないか。
古今の書物に脈々と流れる論理の構造を掴み、解き明かす。
重厚なテーマに挑んだ連続講義!!

(本の帯より)

 歴史とは何か? ヒューマニズムとは何か? 近代〈モダン〉とは何か?
 いま世界で起きているのは、すでに克服され、古いものになったはずの民族問題であり、宗教問題の再発である。
 揺れる現代社会は、ナショナリズムの理解がないと分析できない。それにはキリスト教の理解がないとわからないし、根源的な歴史哲学や論理を押さえなければ、物事の表層をなぞるだけになる。現実に、思想は未だ強い影響を与えているのだ。
一過性ではない教養を身に着ける知の連続講義!!

(本より)」

 現代社会の問題をどう考えていくのか、ヒントがいろいろと書かれていました。

 過去の歴史を読み時、今後の情勢を見ていく上でのヒントが盛り込まれていました。
 歴史を通じての教訓とでもいえばいいでしょうか。
 

 興味深かった内容は、

・晩期資本主義という概念は、福祉国家のこと。貧困などが出てきて労働者が弱くなると、資本主義社会も弱くなってしまう。資本主義社会はそれ自体がどんどん変容していく力がある。

・古典は、古典の構造を読み解くことによって、現在の現象、あるいは将来の現象についても説明することができる。
 古典を読む際の注意点は、あまりわかりやすいものは避けたほうがいい。なぜなら、特定の時代の状況の中で書かれているからわかりやすいわけで、少し時代的な状況、与件が変化すれとわかりにくくなる。わかりにくいもので、現在まで読み継がれている古典は、それなりに時代の波を経ている。

・EUは基本的にはヨーロッパの文化総合が拡大したもの。ヨーロッパの基本になっているのは西ヨーロッパ。この西ヨーロッパはローマ法の伝統が強い。
 前意に決めたことと後に決めたことだと、後に決めた方を優先する。これもローマ法の考え方。
 どういうものが流通しているかというのは、文化体系によって異なる。

・ロシアがなぜEUに統合できないのか。それは、基本的にロシアはビザンツ帝国、東ローマ帝国の後継であって、ユダヤ、キリスト教の一神教の伝統、ギリシャ古典哲学の伝統は持っているけれども、ローマ法の伝統は持っていないから。

・インフレ政策で札を多く刷り、産業政策をきちんとできない形で起きる一番大きな可能性は、名目賃金の上昇、実質賃金の低下。
 労働者は賃金がデフレで下がり、労働者の賃金問題に応じる形で、札をたくさん刷ると・・・・・・金と結びつかないところで刷る・・・・・・すると名目賃金は上昇するが、物価がそれ以上に上がると実質賃金は低下。

・日本人は漢字かな混じりの文化を使うが、コンピュータのような横文字がそのまま入ってくることの怖さは、実は消化しないでもわかったふりができてしまうということ。

・過去のしがらみがあるけど、やりたいこともある。どこまでできるかわからないが、やってみる。その2つがぶつかり合うことで、今の私がいるのだという。そうすると、過去に囚われない未来志向というのは、全く間違えた歴史認識になる。過去に囚われずして、未来を建設することはできない。未来の理想と過去から縛られている現実、そのぎりぎりとした板挟みの中で我々は行動することで、歴史をつくっていく。
 過去から引きずっているものを受け止め、そのしがらみの中から、やりたいこととの間で何が実際にできるかと、行為をする。行為をすれば反発はあり、その反発を受け止めて先に進んでいくことが重要。

・思想にだけ走って思想過剰になると、現実を遊離して独善的となり、実行力に乏しく空虚なものになってしまう。
 行動のみに走ると、直接行動第一となり、思想の操作を迂遠とするような、極めて近視眼的な、時には盲目的な行動主義に陥ってしまう。
 それは、行動一本の無思想になるか、あるいは直接行動にとって都合のいい単純な思想だけに偏向してしまう。

・一つ一つの情報に関して検証していくことそのものは可能だが、それは大変な時間とエネルギーがかかるため、とりあえず誰かが解説してくれることに順応することに陥ってしまうことも。そうした習慣が身につくと、自分で考えるということがだんだんできなくなっていくことに。

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