情報収集・分析、国際情勢の動向のヒントが盛り込まれた、『私の「情報分析術」超入門 ~仕事に効く世界の捉え方~』(佐藤 優)

 情報収集、分析だけではなく、今後の国際情勢の動向など、様々なヒントが盛り込まれていました。

情報エリートの脳力は報道、公式会見のどこを読んでいるのか!?
人、国家、お金、思惑…
世界の動きをつかむ
佐藤式「情報分析」の実践。

「情報」は日本国民と国家が生き残るためのものである。
■政府の公式サイトは「積極的な嘘」をつかない
■「仕事に必要」か、「教養の強化」か
■朝日新聞に多い官庁人事に関与する「妖怪記者」
■テレビの情報と「マクルーハン理論」
■「スーパースパイ」ではないCIA諜報員のノウハウ
■エボラ出血熱から何を読み解くか
■分析の実践篇「ロシア、日本、外務省、中東・アジア、アメリカ」

(本の帯より)」

 情報収集や分析のヒント、ちょっとした動向だけではなく、今後の国際情勢についてのヒントが盛り込まれていました。

 興味深かった内容は、

・朝日の記者には偏差値秀才が多いので、会社の体質が官僚的になる。鼻持ちならないエリート意識を持つ人が多い印象だが、それを隠す知恵もあり、情報源に深く食い込む記者が多い。中央省府(特に外務省)の人事に介入する「妖怪記者」の比率も朝日新聞が圧倒的に高い。

・国際情勢を分析しそれを血肉とするには、現在起こっていることを多元的に「つなげる力」が必要となってくる。

・ロシアのスルコフは、地政学的観点から日本に好意的だった。「日露の戦略的提携を強化することで、中国を牽制し、米国に対するロシアの発言権を高めることができる」とスルコフは考えている。
→対日関係改善派のスルコフが公職から外れたことは日本にとって好ましくない。そして、スルコフの後任人事は、想定の範囲内では日本にとって最悪。プーチン大統領は、メドベージェフ首相の指名に基づいてセルゲイ・プリホチコ(56歳)を副首相兼政府官房長官に任命。プリホチコは、1997年にエリツィン大統領の補佐官になって以来ロシアの権力闘争の中で巧みに生き残ってきた知恵者。「北方領土を日本に返還する必要はない」というのがプリホチコの信念だという。
 エリツィン政権の時から、北方領土交渉が日本にとって有利な方向に進みそうになるとプリホチコがいつも邪魔をしたという。その手法は、オフレコでマスメディアを通じて情報操作を行うというやり方。さらにプリホチコは、「日本よりも中国との関係を強化することがロシアの国益に貢献する」と考えている。ちなみに、プリホチコは元外務官僚なので外務省の内情に通暁しているという。
 北方領土交渉を担当するロシア外務省のモルグロフ次官もプリホチコと同じ路線。

・現下、プーチン大統領とメドベージェフ首相(前大統領)の水面下での権力闘争が激化しているという。
→プーチンは、メドベージェフを首相職から「自発的辞任」に追い込むべく、種々の画策を強化するものと見られる。

・以前からロシアの軍産複合体は、イランと本格的な軍事協力を進めたいと考えていた。しかし、プーチン大統領や外務省が、米国との協調を重視するため、軍産複合体のイランとの兵器ビジネスは抑制されていた。その抑制がなくなりつつあるという。
 米国、EU(欧州連合)が対ロシア包囲網を形成しようとする状況で、欧米と対立するイランと提携することで、包囲網に対抗する力をつけようとしている。
 ロシアは中国にも接近する。中国が、米国はウクライナ問題とイラン問題で手一杯で、きめ細かいアジア外交を展開する余裕がないと判断すれば、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を力で奪取する可能性が十分にある。
 今のまま、米国とEUがロシアに対する圧力を強めると、ロシアはイランと中国に接近し、「モスクワ・テヘラン・北京」の枢軸が形成される可能性がある。力によって既存の国際秩序を自らの有利な方向に転換することを試みる。局地戦が外交の手段になる。局地戦が拡大して、第三次世界大戦に発展する危険性を過小評価してはならない。

・現代の日本を読む場合。公明党と創価学会の動きに注目。実質的な「野党」が他にないからだ。政府と自民党の暴走を阻止できる現実的な政治勢力は、公明党しかない。
 自民党は下野した時に反省を全くしなかった。再び与党となった自民党の体質は依然と全く変化していない。いずれ国民から見放される。
 近年の国家機能の弱体化に比例し、政治家個人(国政だけでなく地方議員や首長も)や政党の機能も弱体化している。国際社会ではますます国家エゴが強まり、新帝国主義の時代に突入している。
 今後の日本が抱える最大の課題の一つは、現在の安倍政権の支持勢力でもある排外主義的ナショナリズムとどう対抗するかである。排外主義と積極的平和主義が重なることは戦争への人里塚である。戦争を強く否定する公明党は、国際情勢の現実をよく理解している。

・イスラエルでは、新移民の影響で、過去10年でイスラエルの若者がウオトカやウイスキーなどの強い酒を飲むようになった。
→新移民とは、1980年代末以後、旧ソ連からイスラエルに移住したユダヤ人を指す。イスラエルの人口800万(ユダヤ系600万人、アラブ系200万人)のうち、100万人のユダヤ人が新移民。この人達は、ヘブライ語とともにロシア語も話し、IT産業の中核になっている。
 ソ連時代、差別を避けるために、多くのユダヤ人が理数系に進んだ。理数系の専門知識を持っていれば、ユダヤ人であっても良い就職先を得ることができたから。この理数系が得意なユダヤ人がソ連からイスラエルに移住。この人達は、現在もロシアの親族や友人と人脈を維持し、頻繁に従来している。
 ウクライナ問題で、米国が同盟国であるイスラエルに対しても対露制裁に加わるように働きかけている。しかし、イスラエル政府は「我々は周辺諸国との問題で手一杯だ。ウクライナ問題のような難しい問題にイスラエルのような小国を巻きこまないでほしい」と。対露制裁を行って、ロシアとの関係を悪化させると、新移民はイスラエル政府に対する不満を強める。米国の同盟国でありながら、ロシアとも良好な関係を維持するという綱渡り外交をイスラエルは、展開している。

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